ジャズ批評誌2009年1月号

こんなに女性ジャズ・ヴォーカルが出て大丈夫なのだろうか?
レコード産業の末端にあって多少は業界内を知る者として危惧を
抱かないでもない。たくさん出るということは優秀な人材が発見される
確率が高くなる反面、玉石入り乱れるから有為の者が看過されてしまう
危険性も高まる。リスナーの飽食からくる拒絶反応も怖いではないか。
しかしそれでも出てくるのは市場価値以前に女性たちに表現衝動があり、
冒険ではあってもそれを許容できる人的、経済的な環境が整っているの
だろう。音楽はどこへ行ったと言いたいところだが。
他し事はさておき、北川真美はこんな状況下で世に出ても、他と峻別される
だけの器量を備えた人材であることは間違いない。これが初録音だが
すでに己を世に問うだけのものを持っている。選曲よし、声よし、語法も
正統スタンダードを歌うに適している。
まだ原石だがその光は粗い岩肌を通しても目を射てくる。
なにより陳ねこびたところがなくおおらかに歌う点が好ましい。
年齢相応の色気もあるが、巧まざる結果であるとすればさらに良。
この夏、日本デビュー・アルバムが出た米国の遅咲きシンガー、
メロニー・アーヴァインにも通じる上品な色気だ。(小針俊郎)

コメントは受け付けていません。